A Project for improving perinatal care
ハート

研究内容

周産期ケア向上のためのプロジェクトの概要

痛みや負担の少ない子育てを

このプロジェクトは、妊娠期から出産、産後4か月までのお母様の生活と、心身の健康状態を調べ、妊娠・出産による身体的な変化がご本人の精神的健康と育児・生活行動とどう関わっているかについて、検討していきます。これらの結果を通じて、周産期(妊娠期・分娩期・産後)、妊娠期の身体の変化によって生じる身体部痛、分娩に関連する身体部痛と育児・日常生活行動や、心理的健康状態との関りから、痛みや負担の少ない子育ての支援方法を検討することが目的です。

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  • 周産期から取り組む母親の役割自信構築支援のための基礎的研究

    妊娠・出産は、女性にとって人生における喜ばしいライフイベントの1つですが、産科合併症の増加や子育てのしにくさ、抑うつ傾向を示す母親も増えています。

    国内においては、産後うつ病自己評価票を用いて、早い段階で発見することが進む一方で、早期発見だけでは、対応に限界があります。わが国の産後ケアの特徴として、産後48時間以内に退院する諸外国と比較すれば長い入院期間があります。この時間的な利点を活かし、周産期ケアのあり方と産後の母親の身体的回復が母親役割の自信や育児ストレスにどのように関連しているのかについて検討し、具体的な産後の母親の役割適応を促進する助産実践につながる重要なエビデンスを提示することを目的としています。

    現在、大学院生とともに愛知県内の産院や助産院を中心に調査に取り組んでいます。

関連研究課題

周産期ケア向上のためのプロジェクト以外に、以下のような研究を行っています。
主に、母親と新生児の関わりや、新生児の行動と助産師の関係など、母親と赤ちゃんについて研究しています。

  • スウェーデンとの国際比較にみる新生児の哺乳探索行動に関する研究

    研究目的は、健康な正期児(妊娠37週から41週で生まれた赤ちゃん)の哺乳探索行動を明らかにすることです。

    ビデオレコーダーを使用した観察研究方法を用いて、出生直後からの早期母子接触場面を観察しました。分析は、Widstromの9stagesに基づき、各哺乳探索行動が出だす時間を解析、その後、国際比較をおこないました。研究対象となった母子は24組(男児9名、女児15名)、母親の平均年齢は29.2±4.3歳です。本研究においては、出生直後の啼泣時間(泣く時間)が平均16秒と非常に短い時間である事が示されました。また、出生直後から哺乳開始までに、助産師は母親の要望により新生児を移動させることが多く、その結果、新生児のstageが変動することを示しました。

    また先行研究で報告されているWidstromの9 stagesにみられる新生児の哺乳探索行動は、生後2日目においても確認できます。しかしながら、その哺乳行動の一つ一つは出生直後よりも早く、新生児が哺乳回数とともに吸啜技術を向上させていることを示しました。生後2日の時点では、分娩時に母親が医学的介入を受けていない場合、哺乳に重要なサインとなるrooting movementは体重減少が大きく、生後日数が若い新生児ほど多いことを示しました。

    出産において新生児が自発的に吸啜(おっぱいを吸う行動)をするためには、助産師の関り方が影響することが示されました。

    WHO/UNICEFによる母乳育児成功のための10カ条-2018改訂訳-「第4条では、出生直後から途切れる事のない早期母子接触をすすめ、出来るだけ早く母乳が飲ませられるように支援する」と和訳されてますが新生児の行動を阻害することのない安全な早期母子接触の実施のエビデンスを示しています。

    上記の成果は共同研究者とともに国際学会誌へ投稿しています。

    • ・Brimdyr K, Cadwell K, Svensson K, Takahashi Y, Nissen E, Widström AM. The nine stages of skin-to-skin: practical guidelines and insights from four countries. Matern Child Nutr. 2020 Jun 16:e13042. doi: 10.1111/mcn.13042.
    • ・Brimdyr K, Cadwell K, Stevens J, Takahashi Y. An implementation algorithm to improve skin-to-skin practice in the first hour after birth. Version 2. Matern Child Nutr. 2018 Apr;14(2):e12571. doi: 10.1111/mcn.12571.
    • ・Takahashi Y, Jonas W, Ransjö-Arvidson AB, Lidfors L, Uvnäs Moberg K, Nissen E. Weight loss and low age are associated with intensity of rooting behaviours in newborn infants. Acta Paediatr. 2015 Oct;104(10):1018-23. doi: 10.1111/apa.13077.

  • 出生直後のwell-being新生児の呼吸確立援助についての科学的検証

    正期産(妊娠37週から41週で生まれた赤ちゃん)で健康に出生した新生児を鼻腔口腔咽頭吸引群(13 名)と非吸引群(13名)に無作為割付し比較した結果、酸素飽和度と心拍数の安定に要する時間に関して両者の間には統計学的な有意差はみられませんでした。
    これは慣例的な吸引の実施は再考すべきであることを示すものといえます。
    今日、NCPRの普及により、慣例的な出生直後の気道吸引は減少しているかもしれません。しかしながら、どのくらいの産科医療機関で、母子の安全を考慮しながら、母子にとって自然なケアがなされているでしょうか。私が研究に取り組んでいる出生直後から切れ目ない早期母子接触もその一つです。母乳育児成功のための10ヵ条-2018改訂訳-第4条では、出生直後から、途切れることのない早期母子接触をすすめ、出生後できるだけ早く母乳が飲ませられるように支援することが推奨されています。  この実施根拠として、出生直後の新生児を対象に、早期母子接触開始時間別の2群間で、新生児の心拍数と酸素飽和度の変化を比較したところ、出生後ただちに早期母子接触を開始した群の新生児の心拍数は、体重計測など実施されたのちに早期母子接触を開始した群の新生児に比べて、生後20分間、心拍数が早く落ち着くことを示しました。しかしながら、酸素飽和度には、開始時期による差はありませんでした。

     次に、1時間以上の早期母子接触をした群の新生児と1時間以内で早期母子接触を中止した群の新生児の唾液中コルチゾール濃度の変化を比較しました。コルチゾールは、ストレスホルモンといわれており、ストレスが大きい場合に高くなることが示されています。早期母子接触を1時間以上した群の新生児の唾液中コルチゾール濃度は、1時間未満で終了した群の新生児よりも有意に低くなることを示しました。国際的に実践されている早期母子接触と哺乳に関する研究では、新生児は1時間前後の時点で母親の乳房にたどり着き、吸啜を開始することがわかっています。この母子の始まりの1時間、陣痛というストレスに加えて、産道を通過するストレスを乗り越えて産まれてくる新生児が、ただ、母親に抱っこされることだけで、啼泣が少なく、心拍数が早期に安定し、出生の際に経験したストレスを減じることができることを報告しています。このような新生児にとって快適な状態は、生後2時間における血糖値も高めることを報告しています。

    • ・Takahashi Y, Tamakoshi K. The Positive Association Between Duration of Skin-to-Skin Contact and Blood Glucose Level in Full-Term Infants. J Perinat Neonatal Nurs. 2018 Oct/Dec;32(4):351-357. doi: 10.1097/JPN.0000000000000335.
    • ・Takahashi Y, Tamakoshi K, Matsushima M, Kawabe T. Comparison of salivary cortisol, heart rate, and oxygen saturation between early skin-to-skin contact with different initiation and duration times in healthy, full-term infants.
      Early Hum Dev. 2011 Mar;87(3):151-7. doi: 10.1016/j.earlhumdev.2010.11.012.
    • ・高橋 由紀.出生直後の健康な新生児に対する鼻腔口腔咽頭吸引群と非吸引群の比較 経皮的酸素飽和度および心拍数に与える影響, 日本助産学会誌23(2), 261-270. 2009.